魔界で暮らしていたころは、“頭”という立場を利用して、数々の女を侍らせてきた。 その女たちは、自ら蔵馬を欲し、快楽の渦にのまれ、我先に蔵馬と交わり一つになろうと躍起だった。 年端のいかぬ生娘たちでさえ、蔵馬の恐ろしくも美しい姿に突き動かされるようにのめり込んでいったものだ。 蔵馬もその女たちに、見せかけではあるものの情を与えてやり、女の望むままに“一つ”になった。 だが、は──。 に出会ってから、蔵馬は他の女を抱くことはしなくなった。 賊の連中はの存在を知らないために、手近な女を捕まえてきては蔵馬の前に差し出すが、もはや‥‥蔵馬は抱く気すら起きない。 それが例え、情を伴わないただの快楽であってもだ。 差し出された女たちは、最初は命乞いをして怖がっていたくせに、蔵馬の姿を見た途端に自ら裸体をさらけ出した。 『抱いてくれ』とにじり寄り、恥じらいもなく、露わな胸を蔵馬へと突き出して──。 その女を目にしたその瞬間、の姿が蔵馬の脳裏に浮かんだ。 後ろめたいからではない。の“闇に咲く花”に似た、一筋の光のような輝きが見えたからだ。 が蔵馬に向ける、炎のような瞳。媚びを売らず、凛と佇みながらも、臆さず正面から立ち向かってくる強さと勇ましさに、蔵馬は惹かれた。 他者より、常に腫れ物扱いをされてきた蔵馬にとって、飾らないの心は、とても新鮮で、かつ心地よかった。 それに比べて‥‥。目の前で媚を売ってへつらう女が、まるで虫けらのように蔵馬の目には映った。 護る者ができたことによって、自身の生き方にも変化が生まれた。 俺はもう、ただ欲望や権力のためだけに、女を抱いたりはしないだろう。きっと一生──。 たかが人間の小娘に翻弄され、嫉妬し、一喜一憂している自分は、果たして強くなったのか、弱くなったのか‥‥。 「すまなかったな」 「──蔵馬?」 「慣れない世界にいるせいか‥‥。つい、お前を見ていたら抱きたくてたまらなくなってな」 も自分を愛してくれているとわかった瞬間、蔵馬の中でなにかが弾けた。 いつか、を庇って死んでしまう日が来るかもしれない。それでもかまわない、全て承知の上だ。 だとしたら、その前に──という衝動に駆られたのだ。 しばらく呆けていただったが、蔵馬の甘い視線に、顔が茹蛸のように真っ赤になる。その様子を、蔵馬はクスクスと笑った。 「この続きは今後にとっておくとするさ。今は、お前に無理強いをさせたくはないからな」 「続きって‥‥言われても!」 「ならば、今から続きをするか?俺なら構わんぞ。お前が望むなら、俺は──」 「お‥‥お断りします!」 迫ってくる蔵馬の肩を押し戻し、はすっと立ち上がった。蔵馬は、まだクスクスと笑っている。 エレベーターのキーを差し、籠が開くなり、は逃げるように入ったが‥‥そのまま閉めようとはしなかった。は『開』のボタンを押し続けたままである。 「何をしている?さっさといけばいいだろう」 てっきり蔵馬は、しばらくは自分の近くにいたくないだろうと思って、素っ気なく突き放した。だが‥‥。 は、首を横に振る。 「そんなこと言って!独りで寂しく機械室にいるつもり?」 「‥‥」 どことなく罪悪感に苛まれている蔵馬を眺めていると、まるでこちらが悪いことをしたみたいだ。 「ほらぁ蔵馬。このまま、エレベーターを独占したままではいられないのよ?」 仕方なしに蔵馬が立ち上がった瞬間、思わず後ずさりをしたに、蔵馬はハッとしてたたらを踏んだ。 (え‥‥えっと──) つい、体が動いてしまった。 しばし硬直する二人だったが、は蔵馬の腕を強引につかむと、「早く!」と苦笑い浮かべながら強引に籠の中に入れて『閉』ボタンを押した。 そして、何も言わずに15階のボタンを押した。 (俺を送り届けるつもりか、それとも俺を部屋へ追いやるつもりか。ま、どちらでも構わんが‥‥) 気まずい沈黙が流れながら、エレベーターが動き出す。その気まずさに耐えきれず、が口を開いた。 「ゴ‥‥ゴメンね」 「?」 「あの‥‥ね。あの‥‥。いつかは‥‥その‥‥大丈夫と思う。でも、今は‥‥恥ずかしいというか、なんというか‥‥」 ボソボソっと、照れくさそうにがモゴモゴとつぶやく。 「さっきは、ちょっと‥‥ビックリしちゃったのよ。でも、ほんとうに‥‥いつかは、きっと大丈夫だから。だから‥‥えっと‥‥えっと‥‥」 懸命に言葉を探すを、そっと後ろから抱いた。 「すまなかった。愚かなことをしたと思っている。どうか、許してほしい‥‥」 「やだっ、やめてよ。別に、謝られるようなこと、私はされてないわよ」 知っている。分かっていた。蔵馬は私を傷つけない──。彼は、優しく私に触れてくれていた。ただ‥‥私が無知で、驚いただけ。 「だから、いいのよ。これ以上、もう謝らないで。そんな顔されると、なんだかとても辛いわ」 () 蔵馬はを向き直させると、そっとの顎をそっと掬った。 一瞬ビクッと肩を竦ませたに、蔵馬は優しく頬をさすり、静かに首を横に振る。 「安心しろ、口づけだけだ。それなら‥‥いいだろう?」 「う、うん──」 「愛している。──」
この後、蔵馬がの暗殺未遂があったことを黒鵺に話します。 それで次回は、それを聞かされた黒鵺メインのお話です。パス制にして、それも申告制にさせていただきます。 理由は‥‥リアルな惨殺シーンがあるからです。グロくて血生臭くて、とにかく凄惨な描写が多々ありまして‥‥。それを文章にしたところ、すごい生々しかったんです。 ヒント制のパスでは、実質解けば誰でも入れちゃいます。この夢小説は、小学生の方もお読み下さっているので、さすがにこれはヤバい! サーチで幽白の夢小説をあちこち探索しましたが、皆さん美しい夢物語で、私の夢小説は‥‥一線を越えてしまいました。 本来の『夢小説』のイメージを損なわないよう、私は隠れます(爆)。 |