傷ついた黒鵺を抱え、やっとのことで辿り着いた、との魔界での我が家。 (やっと着いたー!) 簡易担架に乗せられた黒鵺を、霊界鬼は一旦地面にそっと降ろした。 簡易担架といっても、霊界鬼が作ったのは、どちらかというと“寝袋”に近いもの。黒鵺を運んでいる──つまり助けている所をハンターに見つかると、さすがにヤバイらしい。 が、黒鵺の状態を確認する。簡易担架の中で、黒鵺は気持ち良さそうに眠っている。顔色も先程よりも良くなっているようだ。 「ったく、スヤスヤ眠りやがって」と愚痴りながら、雷鬼が玄関のドアノブを回すが、ドアが開かない。 (鍵がかかっているのか?) しかし、玄関のドアノブには鍵穴らしきものが見当たらない。 雷鬼が鍵穴を探していると、は、「今開けるわ」と人差し指をドアホンの下にある穴に突っ込んだ。 ガチャ──と鍵が開く。 鍵は『生体認証・静脈認証』のようだ。なるほど‥‥盗賊が頻繁に横行する魔界では、これは当然の対策といえる。 が玄関のドアを開け放つと、雷鬼と雲鬼が、黒鵺を慎重に家の中に入れた。 黒鵺が家の中に入った事を確認すると、は急いで玄関のドアを閉め、すばやく鍵をかけた。 (あぁ‥‥やっと我が家だ〜) 途端に、張り詰めていた緊張が一気に解け、は深くため息をついた。 すると、急にの事が心配になった。 黒鵺をハンターに見つからず連れ帰ることに頭が一杯で、の事を考える余裕が無かった。 (、大丈夫かしら?) 魔界の森を人間一人でうろつくなんて、冷静になって考えると恐ろしいことかもしれない。 霊界鬼はこう言っていた。万一の備えに、に『防具』を渡したと。 (大丈夫。きっと大丈夫よね) 自身の頬を両手でパシッと叩き、渇を入れて言い聞かせる。 は、黒鵺を『自分の部屋』に運ぶよう雷鬼にお願いした。 この家は4LDK。・の個人部屋と、空き部屋が二つ。黒鵺は、本来ならば、彼女らの部屋ではなく、空き部屋に運ぶべきだ。 しかし‥‥。 と以外の空き部屋は、事前に部屋の掃除は頼んではいなかった。自分達の引越し荷物は、その部屋に全て詰め込んでもらっている。 私物に医療器具──。恐らく、その二部屋は物置と化しているだろう。物置に黒鵺を置くわけにはいかない。 対して彼女らの部屋は、知り合いの女性が既に掃除してくれていると聞いている。そちらの方が勝手が良い。 「わかった。運ぼう」 霊界鬼は承諾し、の部屋に備え付けてあったベッドに寝かせた。 は空き部屋から医療器具を取りに行き、黒鵺の腕に点滴。道中、応急処置しか出来なかった傷の縫合をし直すなど──あっという間に一連の処置が終わった。 その手際のよさに驚く霊界鬼。 (やっぱりあの時、達を手放さなくて良かった) 雷鬼と雲鬼は互いの顔を見つめ、心底そう思った。 全ての医療処置を終え、眠る黒鵺を残して部屋を退出する。の緊張は、解けたり緊張したり‥‥と忙しい。リビングに備え付けのソファーに、は崩れるように倒れこんだ。 首に手を回して凝った筋肉をほぐし、首をうな垂れる。全身の力が抜けていくようだ。魔界に入ってから歩き詰めだし、いい加減に疲れてくる。 ちょっとだけ横になろうと体を倒そうとした時、腰ポケットに付けている無線機が鳴り響いた。 眠い目を擦りながらも、その通信に出る。 「はい。────────────え、!?」 |