闇に咲く花 第4部 10話[完]

「どうしたの、黒鵺?」
 その叫び声に、がパタパタと駆け込んでくる。
「何があったのですか?黒鵺さん」
 それから遅れて、蔵馬がヌゥッと現れた。
 二人の人間の女の姿を見て、賊の部下たちは一瞬静まり返った。
「ねぇ、黒鵺。これなに?なんなの?」
 黒鵺は、腰に手を当て、得意げにウインクをしてみせた。
。どうやら、部下がお前を認めたらしいぜ。さすが俺の部下は、俺に似て物わかりが良い。お前の事を受け入れてくれた。勿論、そこの女もだ」
 黒鵺は腕を組んで壁にもたれると、に向かって、部下の輪の中に入ってみろとジェスチャーで促した。
 不安げながたたらを踏んでまごまごしていると、痺れを切らした部下の男がの前に立った。
 思わずドキッとして後ずさると、部下は、不器用ながらに「ようこそ」と小さくつぶやいた。
 信じられないという表情で、は黒鵺と部下を思わず二度見する。
 黒鵺は、「俺の言ったとおりだろ?」と言わんばかりに笑みを浮かべていた。
 ただ、賊に迎えられたとはいえ、それは“歓迎”ではなく、単なる“空気”として、賊の中に存在することを認めただけだけなのかもしれない。
 しかし、を拒絶することはせず、まして排除しようともしない。それを、黒鵺が認めさせた。決して、力づくではなく。
 は部下の手を取って「ありがとうございます!」と礼を言い、深々と頭を下げた。部下は、人間のの手を振りほどこうとはしなかった。
 初めから、彼らに好かれようとは思っていない。でも彼らは人間を排除せず受け入れてくれている。それだけで、十分だった。
 は目に涙をためながら、何度も黒鵺に感謝を述べた。
「愛している」
 黒鵺は優しく囁くと、人目もはばからずに口づけをして抱きしめた。
 少々照れくさかったが、照れている場合ではない。自分の、へ対する思いの全てを、部下に分からせる──最も簡単な方法をとった。
(俺だってやるときはやる。言うときには言うもんさ)
 部下達は、その光景をじっと眺めていた。
 自分達と接する時とは全く違う、副将の姿。今まで、冷たく恐ろしい瞳しか知らなかったが、我らが副将は、こんなにも優しく穏やかな表情を他者に見せることもあるのか。
 その柔らかで穏やかな姿は、この女がいるからこそ、生まれるものなのだ──。
 『この女は、俺に安らぎをもたらす』。それが偽りのない真実だと、部下たちは悟った。
 そして、視線を移せば、頭の傍らには、別の人間の女が佇んでいる。
 頭の表情も、いつもの冷酷さは消え失せて、どことなく柔らかく温かに思えた。
 やはりそれも、女がいるからか。
 頭と副将の新たな一面。なぜだか、悪くは思わない。
 部下たちは、愛や恋については理解できない。この先も誰かを愛することはないだろうし、ましてや人間を好きになろうとは思わない。
 でも、頭と副将にとって、この人間の女が大事だというのであれば、自分たちはそれに従うまで。この二人の人間の女を排除しようとは思わない。

「黒鵺、すまないな」
 が寝静まった後、蔵馬は黒鵺に礼を述べた。
 部下たちに、を受け入れさせたこと。それはつまり──の存在をも受け入れさせたことと同じこと。
「感謝している。俺は、をどう部下に伝えて迎え入れようかと悩んでいたが、お前が見事に成し遂げてくれた」
「よせよ、気持ちわるいじゃねぇか」
 黒鵺は、ヒラヒラと手を振った。
「仕方ねぇだろ。お前の女が賊を出ていったら、きっともついって行っちまうからな。この前、女を追ってまで人間界に行っちまった時、それを思い知らされたからな。もう‥‥そういうのは嫌だと思ったまでだ。気にすんなよ」
 蔵馬を恐れてが人間界に逃げたとき、について人間界に行った。を引き留めることはせずに、魔界を去った。※1
 が去れば、も去る。が去れば、も去る。黒鵺はただ、を去らせない為に、も受け入れさせただけにすぎない。
「それでも、感謝している。さすがお前は俺の右腕の副将に相応しい男だ」
「ハハ‥‥。よせよ、褒め殺しか?お前にそこまで言われると気味が悪いな。まぁいいさ。じゃぁこの件は貸しにしといてやるよ」
 そう捨て台詞を吐いて、、黒鵺は部屋を退室していった。
 これから、賊での生活が始まる。
 前途多難。これからも、トラブル必至の毎日になりそうである。

 でも、なんとかなる。
 俺達は部下を信じている。蔵馬率いる誇り高い、信頼できる部下達が──。

∧※1…第2部-4話  
ハッピーエンドにしないといけないなぁと思いながらも、これから前途多難な毎日が待っていそうな感じです。
蔵馬と黒鵺は、ヒロインと共に生きるため、妖怪の盗賊に迎え入れる。
トントン拍子に進む話も良いし、それが夢小説の良いところで、ヒロインは賊仲間の姐さんとなって──。
でも私の夢小説のヒロインは、盗賊仲間に嫌煙される。役に立たないと辛辣な言葉を浴びせられる。いるだけで邪魔だから暗殺されそうになる。
‥‥気の毒になるくらいのヒロインですが、現実には、絶対こうなるだろうなと思いまして(-_-;)。
もし、5部をやるとしたら、慣れない盗賊仲間達の間で、終始ドタバタ格闘するヒロインになるのかな?と思います。
盗賊の本性を知る中で、ヒロインがどう対応し、何を感じるか、そのヒロインを蔵馬たちはどう思うか。色々思うところも書けるのかも?

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